3.横領による損失

 横領損失は、横領の事実が発生した時点では当該者に対する損害賠償請求権を法人が取得すると考え、当該事業年度の益金の額に算入することになります。つまり、会計上は収益と損失の両建となりますが、この時点では、損失は税務上損金不算入となります。その後に、損害賠償請求権の回収不能が明確となった時点で、税務上貸倒損失として損金の額に算入することとなります。ただし、法人が単に帳簿上の勘定科目を振替えただけでは損金算入は認められません。債務者の資産状況、支払能力等の状況を把握し、回収不能であることを明らかにする必要があります。把握した内容は時系列で整理し、回収不能の判断等は取締役会等で決議しておく必要があります。

 損金の額に算入される時点ですが課税所得の計算上、当該損害賠償請求権の貸倒れの事実が明確となった日の属する事業年度に算入されることになりますので、貸倒れの事実が明確となった日の翌事業年度以降に貸倒損失を認識し、損金の額に算入することは所得操作となり認められません。

 また、横領を行った者が法人の役員である場合には特に注意が必要です。役員であれば実質的には法人の行為であると考えられ横領損失ではなく、横領をした役員に対する役員賞与とみなされる可能性があります。この場合、役員賞与は損金不算入となりますし、法人は源泉徴収義務が発生し不納付加算税が課されることとなります。