8.配偶者居住権と贈与税
配偶者居住権設定後の税務問題
被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたときには、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益する権利を取得します。これを配偶者居住権といい、民法の改正により令和2年4月1日から施行されています。
配偶者居住権は、配偶者が、住み慣れた自宅で生活を続けるとともに老後の生活資金として預貯金等の資産も確保できるメリットがあります。配偶者居住権の設定後、特に何もなければ税務問題は生じないのですが、次のような場合には注意が必要です。
建物の所有者(長男など)との間の合意若しくは当該配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合などにおいて、当該建物の所有者又は当該建物の敷地の用に供される土地の所有者が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、当該建物等所有者が、その消滅直前に当該配偶者が有していた配偶者居住権の価額に相当する利益又は当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益を、当該配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱われます。
これは合意や放棄により権利が消滅した場合で、適正な対価の支払い無しに、建物等所有者が当初予定されていた存続期間の満了を待たずに居住建物等の使用収益ができることとなってしまい、配偶者から建物等所有者へ居住用建物等を使用収益する権利が移転したものと考えることができるからです。