1.給与所得者の特定支出控除
給与所得者は、給与の金額によって給与所得控除額が自動的に決まり、給与所得控除後の金額をベースに所得税が課税されます。ただし、給与所得者が特定支出をした場合、その合計額がその年中の給与所得控除額の1/2を超えるときは、その超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができます。一見すると会社員にとって大きな節税ができるような感じがしますが、その適用には高いハードルがあります。
特定支出は、1.通勤費、2.転居費、3.研修費、4.資格取得費、5.帰宅旅費、6.勤務必要経費、7.職務上の旅費(この旅費は令和2年以降)に限定されます。そして、これらはいずれも給与の支払者(会社等)が証明したものに限られます。つまり、自身の判断で勤務に必要なものとして支出した費用は認められないことになります。国税庁の質疑応答事例では、自身の仕事に関する研究発表のために渡航した自己負担費用(旅費・宿泊費)は、研修費としては認められないとしています。
給与所得者は、個人事業主と異なり、仕事に必要な自己負担費用を所得控除することができません。特定支出控除の制度があるものの現時点においては高いハードルがあるため、実際に適用している給与所得者は少ないと思われます。近年では、高額給与所得者の給与所得控除の金額が減少してきています。所得税の課税単位は個人単位主義です。個人の所得に対して課税されることについては、給与所得者も事業所得者も同じであるため、所得を計算する上で、両者の平仄を近づけることが今後の税制の課題であると考えます。